代表理事・会長挨拶

一般社団法人京葉人材育成会 代表理事・会長 阿部 真二(あべ しんじ)
このたび、一般社団法人京葉人材育成会の会長を拝命いたしました、三井化学株式会社 市原工場長の 阿部 真二 です。
まず初めに、長年にわたり本会の発展に多大なるご尽力を賜りました中村昌允名誉会長に、心より感謝申し上げます。前会長の中村先生は、人材育成を通じた京葉コンビナートの持続的な発展を力強くリードされてきました。その志と功績は、今後も私たちの礎として大切に受け継いでまいります。
さて、近年の化学・石油産業界は、脱炭素社会の実現、デジタル化の進展、技術革新による製造現場の変革など、かつてない速度で変化を続けています。京葉コンビナートにおいても、エネルギー転換や安全・環境対策、技術継承といった課題に直面しており、これらに対応できる柔軟かつ持続可能な人材の育成が急務となっています。
京葉人材育成会では、安全管理や技術講座のみならず、若手からベテランまで幅広い世代が学び合い、知恵を共有できる場づくりに取り組んでおります。当会の前身は2008年に千葉県産業振興センターの下に開設された「京葉臨海コンビナート人材育成講座」です。2018年より京葉コンビナート各社が協議を重ね、人材育成教育は企業連合で行うべきだという考えのもと、京葉コンビナート中核企業4社を中心に、2021年に一般社団法人「京葉人材育成会」を設立しました。2023年度からは、千葉県産業振興センターが実施している「京葉臨海コンビナート人材育成講座」を全面的に引き継ぎ、さらに一層充実した研修カリキュラムとなっています。
当会は、コンビナート各社のご要望に応えて、「科学的・論理的思考、行動できる人材育成」を重視し、「現場で活かせる知識」「現場で使える技量」「現場で発想できる感性」を総合的に発揮できる人材の育成を目指しております。ライン管理者は安全管理の要であり、各階層に対応した安全感性の向上、実務に役立つ基礎知識講座、協力会社向け教育の充実に努め、リモート、対面、実践型など多様な教育プログラムや講演会・討論会を通じて会員企業の皆さまの人材育成を支援してまいります。
引き続き、皆様のご指導とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
一般社団法人京葉人材育成会 代表理事・会長 阿部 真二
代表理事・会長の退任にあたって

一般社団法人京葉人材育成会 名誉会長(前代表理事・会長) 中村 昌允(なかむら まさよし)
私は、6月26日をもって、一般社団法人京葉人材育成会の代表理事・会長を退任いたしました。
皆様には、京葉人材育成会の設立準備から今日に至るまで、温かいご支援をいただきました。厚く御礼申し上げます。
最初に京葉コンビナート人材育成教育の仕事に携わったのは、2015年6月8日の千葉県産業振興センターでの打合せからでした。あれから10年が過ぎました。あっという間に過ぎた10年ですが、その中で、コンビナート各社の皆様のご了解とご支援によって自立化を決断したこと、千葉県産業振興センターから円満に業務を引き継ぐためのご了解を得たことなどが重要なエポックでした。
2021年12月7日に京葉人材育成会を設立しました。コロナ禍の影響もあって、本格的な業務開始は、2023年からになりましたが、皆様のお蔭で、今日の日を迎えることができました。
6月26日は、私にとって、大変意味のある日でございます。
1991年6月26日、ライオン㈱千葉工場に、新しく開発して導入した蒸留設備が稼働3ヶ月後に爆発事故が起きました。
私はその事故の開発責任者でした。事故の原因調査を指導していただいた恩師である吉田忠雄東大名誉教授の第一声は「お前は甘い。過酸化物を取り扱うには事前調査が不備である。」という指摘でした。私は「この技術は10年間パイロットで研究し、その間事故がなかったので大丈夫と判断した」と申し上げると、先生は「だからお前は甘い。研究設備で物ができることと実装置で生産できることとは違う。その差が分っていないから事故になった。」といわれました。事実、原因調査の過程で判明したことは、爆発物質がメチルハイドロパーオキサイドという有機化学物質で、当時は危険性評価データもない物質でした。事故の発端は、工程中のpH計の故障で、プラントが約5時間酸性状態で運転されたことでした。蒸留塔で爆発したのは運転停止方法の改善提案でした。あらためてリスクアセスメントの基本は「人は過ちを犯す。機械は壊れる」であること、変更管理における安全性評価の重要性を感じます。
事故原因調査の過程で、多くの企業、研究機関のご指導と協力をいただきました。その際、多くの方々から叱咤激励をいただきました。
一つ目は、どんな企業も事故を経験し、それを克服して、今日がある。二つ目は、事故を起こした会社の社会的責任は、なぜ事故が起きたかを社会に公表し、類似事故が起きないように努めることによって果たされる。三つ目は、安全に携わる者にとって、他社の事故は明日は我が身である。他社の事故は自社の事故に対する執行猶予である。その気持ちで他社の事故から学ぶことが重要である。
私は、自らの安全に対する知識と技術力のなさを痛感し、色々な事故における技術者の判断と行動、事故の根本原因について研究してきました。そのことを評価していただき、安全工学会からは「北川学術賞」、中央労働災害防止協会からは「顕功賞」、セーフティグローバル推進機構からは「向殿安全賞」をいただきました。しかし、事故から30年以上が過ぎた今も、あの時を振り返り、私の判断がそれでよかったのかと記憶がよみがえります。
丁度、この6月26日に、京葉人材育成会の会長を退任することになりました。何か、運命的なものを感じます。
今、日本の化学産業は大きな転換期に来ております。
一つ目は、Commodity製品からSpecialty製品への転換
二つ目は、カーボンニュートラルに代表される社会環境の変化
三つ目は、日本の国際競争力の低下、労働生産性の低下です。
Commodity製品では、国際競争で立ち行かなくなってきていることは、日々、実感されている通りですが、さりとて、化学産業各社の固定費はCommodity製品によって支えられています。一方、Specialty製品への転換は発想の転換を必要とします。グローバルスタンダードを認識し、日本もグローバルと同じ基準で物を製造する必要がある。日本企業は、よい製品を安く提供することが良いことと考えてきたが、その考えでは価格競争に生き残れない。良い品質・高い機能の製品はそれに対応した価格設定をする。多くの企業が参入して価格競争する“レッドオーシャン”から、他の企業がまだ参入してこない“ブルーオーシャン”での戦いに舵を切る必要がある。
カーボンニュートラルは炭酸ガス問題といわれるが、化学産業にとっては石油や天然ガスから、地上にある人工廃棄物や植物原料への転換を意味します。21世紀中に地下から掘り出す石油や天然ガスなどの天然資源、更には鉱物資源も枯渇します。今、地上にある人工廃棄物を出発原料とする時代になります。プラスチックのサーマルリサイクルは、欧米はリサイクルと認めていないが、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルには限界がある。プラスチックの再利用はサーマルリサイクルによって排出される炭酸ガスを出発原料とする新たな化学プロセスへの転換を必要とします。
日本の国際競争力は、スイスIMDの評価では38位です。労働生産性はOECD先進国中の最下位です。この現状をどのように打開していくか。主要原因は「考え方」と思います。①私たちが作る製品の付加価値が低いこと、他と差別化できる強さを持っていないこと、②生産工程へのンピュータ技術の活用が遅れていること(人と機械との協調)と考えます。稲盛和夫氏は、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」、このうち能力と熱意は、それぞれ0点から100点まであり、これが積で掛かるので、能力を鼻にかけ努力を怠った人よりは、自分には普通の能力しかないと思って誰よりも努力した人の方が、はるかにすばらしい結果を残すことができます。これに考え方が掛かります。考え方とは生きる姿勢でありマイナス100点からプラス100点まであります。考え方次第で人生や仕事の結果は180度変わってくるのです。そこで能力や熱意とともに、人間としての正しい考え方をもつことが何よりも大切になるのです。」と述べています。今、日本社会が求められていることは、「正しい考え方」と思います。
京葉人材育成会は、このような時代の人材育成をどのように行っていくか。
一つ目は、各社が必要としている基盤技術教育を担うこと、各社は共通の基盤技術の上に、各社の独自技術を開発していく。安全分野、化学工学、設備管理分野などは共通基盤技術です。日本は欧米に比較して基盤技術領域が狭く、これをもっと拡げていくことが必要です。共通基盤技術を担っていくことが京葉人材育成会の大きな役割です。
二つ目は、各社の人材育成プログラムの中に、京葉人材育成会のカリキュラムを制度として取り入れていただく必要があります。京葉人材育成会は階層別の教育プログラムを作ってきております。
三つ目は、これからの京葉人材育成会の課題ですが、人材育成教育を担える指導者を育成する必要があります。技術技能伝承の大きな課題は、育成対象とする人材を選抜することとそれを指導者の育成です。社会人大学院での経験では知識を有する実務家であっても、教育するには3年を要しています。指導者は指導経験を積み重ねて指導者になっていきます。今、一人一人は70歳まで働くのが普通になってきました。是非、多くの方の京葉人材育成会への参画をお願いいたします。
これからの安全の大きな課題は、人と機械との棲み分けをどうするかになります。人は過ちを犯すし、機械も完ぺきではない。一方では、コンピュータ技術の急速な進展は、機械側もセンサーとAIによって人間の行動を監視することができます。人と機械とが相互にお互いの行動を監視し協調することによって、安全を確保する協調安全“Safety2.0”の時代になります。コンピュータ技術、AI技術の発展は、一人一人の働き方に大きく影響します。ミドル領域でルーチン化できるものはコンピュータが担う時代になります。その時、一人一人の生き甲斐がどのようになるか。安全の究極の目標は、一人一人の生き甲斐をどのように考えるかになろうかと思います。
これからは、幹事会社4社の工場長に輪番で会長を務めていただきます。まずは、三井化学の阿部工場長に務めていただきます。これまでとは違い、工場長間の連携による大きな動きも出てくると思います。
阿部新会長を中心に、京葉人材育成会の事務局が、大友さん、谷口さんを中心に頑張っていきます。京葉人材育成会を一層ご支援いただきたくお願い申し上げます。
一般社団法人京葉人材育成会 名誉会長(前代表理事・会長) 中村 昌允